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該非判定のお仕事体験(ラマン分光装置)

  • 大沢
  • 7月28日
  • 読了時間: 8分

行政書士法人メイガス国際法務事務所の大沢です。


本日は弊所にインターンに来てくださった大学院生の方に、お仕事体験として、ラマン分光装置が、外為法による輸出規制を受けるか否か判定する、「該非判定」の業務を体験して頂きましたので、インターン生の方による感想をご紹介します。



弊所の顧問先企業様・クライアント様には、光学機器メーカー、光学機器商社、大学・国立研究開発法人等がいらっしゃるため、各種質量分析計(MS)やガスクロ(GC)等、分析装置の輸出に伴う該非判定のご相談を多数いただいているため、今回のラマン分光装置の該非判定についても、弊所での日々の業務の体験として適切な題材であると考えています(インターンプログラムのため、普段の実務と比べるとかなり簡単ではありますが)。


ラマン分光装置とは?


ラマン分光装置とは、物質にレーザー光を照射し、その散乱光(ラマン散乱)を検出することで、物質の分子構造や化学的性質を非破壊・非接触で分析できる装置です。目に見えない分子の振動や回転の情報を可視化できるため、「これは何でできているか」を突き止める“分子の指紋センサー”のようなものであり、材料分析や異物検査、薬品の同定などに広く用いられています。


🔍ラマン分光装置の用途は?

ラマン分光装置は、医薬品の成分確認、化学プラントでのプロセス分析、宝石・鉱物の鑑定、法科学における薬物検査、さらには美術品の保存・修復、宇宙探査機への搭載まで、非常に多岐にわたる分野で利用されています。税関でも、違法薬物の同定などに用いられています。


とくに近年では、製薬工場における原料受入時の確認や、リチウムイオン電池などの材料評価、さらには食品業界での異物混入検査といった、従来の分析機器では難しかった場面でも注目を集めています。

面白いところでは、ヨーグルトにすり潰したシャーペンの芯を混入させ、ラマン分光装置で検出する試験の結果を、京都府中小企業技術センターが公開しているので興味のある方は是非ご覧ください。


また、最近は現場で即時に使用できるハンディ型のラマン分光装置の登場によって、ラボに限らず、現場での迅速な識別や判断が可能になってきました。



⚠️なぜ該非判定が必要なの?

ラマン分光装置自体は輸出規制がされているわけではありませんが、部分品として励起用レーザーや、光検出器、分光器などの光学機器を搭載しており、これらの光学機器はスペックによっては輸出規制の対象となるため、注意が必要です。

光学機器の該非判定に限らず、貨物等省令(輸出規制の対象とする製品の仕様を定める省令)を読んでいると、専門用語がでてくるので一瞬怯んでしまいますが、しっかりと光学の勉強をしていれば難しいことは何もありません。


例えば、以下のような高出力ナノ秒ファイバーレーザーは輸出規制に該当する品目ですが、括弧内の弊所による解説を読むと、難しいことは書いていないとわかると思います。


規制される高出力ナノ秒ファイバーレーザーの仕様:975ナノメートル超1,150ナノメートル以下の波長範囲(=概ね近赤外線の波長)で、1ナノ秒以上1マイクロ秒以下のパルス幅(=1秒の10億分の1〜100万分の1という、ごく短い時間だけ光を出すレーザー)でパルスを発振する(=断続的に光を出す)もので、単一横モード(=光の出方が整った高品質なビーム)で発振するもので、ウォールプラグ効率が12パーセントを超える(=電気エネルギーのうち12%以上をレーザー光に変えられる高効率な)ものであって、平均出力が100ワットを超える(=レーザー光のエネルギーがとても大きい)もののうち、パルス繰り返し周波数が1キロヘルツを超えて作動する(=1秒間に1000回以上のスピードで連続してパルスを出せる)もの


以下の画像は輸出令/貨物等省令による具体的な規制内容の抜粋です(クリックで拡大)。

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このように、「外国為替及び外国貿易法(外為法)」などに基づいて、一定の性能を超える光学機器は輸出規制の対象になっています。つまり、無許可で海外に持ち出すと違法になるケースもあるのです。


今回の該非判定のお仕事体験では、クライアント様から持ち込まれたラマン分光装置に、輸出規制にひっかかるスペックの部分品が使用されているか判定する、という想定で行われました。


今回のお仕事体験の流れ


今回のお仕事体験では、最初にラマン分光装置の基本構成や、使用される光学部品の物理的・法的な意味合いを座学でお教えしました。その上で、弊所からお渡ししたラマン分光装置のカタログや仕様書、マニュアル等の技術資料を元に、外為法の輸出令・貨物等省令と照らし合わせて、該非判定を行うべき項番をインターン生の方に特定してもらい、そのまま該非判定を行ってもらう流れで進めました。


最初の座学では、まず可視光や電磁波とは何かからはじまり、弾性散乱と非弾性散乱の違い、ラマン分光とはなにか、ラマン分光装置の原理(非弾性散乱を利用して物質の分子構造を解析する手法)を解説し、励起用レーザー、分光器、光検出器といった構成要素のうち、輸出規制に関わる可能性があるのはどこかを説明しました。


今回は実際の所内研修や実務を簡単にしたインターンプログラムのため、Qスイッチやウォールプラグ効率の計算、M²(ビーム品質因子)の評価などは数式の詳細を省き、あくまで「その値がどの基準を越えると該当品になるのか」「該当する場合どんな用途で懸念されるのか」を直感的に理解してもらう方向で進めました。


なお、途中で不明点が生じた場合は、お配りしている参考書籍(弊所教育本部所蔵の技術書)を参照して頂きながら、該非判定を進めてもらいました。


今回の該非判定演習で使用した技術書
今回の該非判定演習で使用した技術書

また、最後に弊所が実際に観測した誤判定事例として、たとえば「ラマンレーザー」と「ラマン分光装置の励起用レーザー」を混同していたケース、「定格出力(Rated Power)」と「ピーク出力(Peak Power)」を混同して誤判定に繋がったケース、「パルス幅」と「立ち上がり時間」を取り違えていたケース、波長範囲について中心波長のみの記載に留まっていたため、実際には広帯域発振するチューナブルレーザーだったことに気づかず、シングルモードと思い込んで該非判定を誤ったケースなどの、よくある失敗事例を説明しました。


そのうえで、「どういったスペックの記載が足りないと、該非判定の誤りや無許可輸出のリスクに繋がるのか」「技術資料のどこを見ればその情報が読み取れるのか」といった視点を意識してもらった上で、インターン生には実際のカタログ資料と貨物等省令を突き合わせながら、自主的に該非判定に取り組んでもらいました。


インターン生の感想


東京大学人文社会系大学院一年生のTと申します。


文系一筋で、法学を専攻していたわけでもないため、法務についても、当事務所で扱うことの多い機械製品についても全く知識がありません。しかし、職員の皆さまが毎回丁寧に一からご説明くださるおかげで、少しずつ理解を深めることができています。難しさはありますが、その分、毎回学びも多く、大きな刺激を受けています。


本日は、分光分析装置を例として、該非判定を体験しました。これはラマン分光法を用いて試料の解析を行う装置ですが、作業の前に、電磁波やその一種としての光について、基礎から座学で教えていただきました。


装置の仕組みと構造を理解した後は、該非判定のマトリクス表から項番を特定する作業です。「レーザー」や「分光」などのキーワードで検索をかけて項番を絞り込んでいくのですが、単語がヒットすると、その項番を安易にリストに加えてしまい、用途や対象をしっかり確認しきれていないことが多々ありました。複雑な階層構造の番号や、見慣れない用語が並ぶマトリクス表を、今後はより短時間で正確に理解できるよう、練習を重ねていきたいと感じました。


項番を絞り込んだ後は、マトリクス表と製品仕様書等の資料を照合し、該非判定をしていきます。ただ、製品仕様書は該非判定用ではなくエンドユーザー向けに書かれているため、該非判定に必要な詳細な条件や数値が記載されていないことが多く、そのような部分は確認事項として別途リスト化する必要があります。インターネットで調べて「おそらく該当しない」と思っても、もし誤っていれば重大な法的リスクにつながります。本日は「はい、懲役10年だね」と5回ほど言われ、肝が冷えました…。(ちなみに懲役10年とは輸出規制該当品を無許可輸出したときの外為法の刑罰です)


より確度の高い情報に辿り着くには、やはり教本をあたることが不可欠です。メイガスの事務所は壁一面が本で埋め尽くされており、今日の作業の前にも何冊かの参考資料を提示していただきました。AIが発達した今だからこそ、基礎から丁寧に解説された信頼できる資料に立ち返る重要性を改めて感じました。また中には、戦前戦中の輸出統制や関税戦争についての古書もあります。複雑で読みにくいマトリクス表は、技術の発展とともに複雑さを増す輸出入管理の知見の結晶であることを痛感しました。


今回取り扱った分光分析装置は、税関で密輸された違法薬物の分析に用いられることがあると伺いました。私自身海外旅行が趣味で、最近一人旅に行った帰りに税関で荷物検査を受けたのですが、その際は目視での確認のみで、このような装置はもちろん使用されませんでした。1ヶ月前に、日本が中国組織のフェンタニル輸出の拠点になっていた疑いがある、というニュースが報じられていましたが、今回学んだ装置がこうした摘発に役立っているのだと実感しました。これまで断片的に耳にしていたニュースの背景が想像できるようになったという意味でも、大変貴重な経験でした。

行政書士法人メイガス国際法務事務所

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