該非判定のお仕事体験(ハイドロホン)
- 大沢
- 7月16日
- 読了時間: 7分
更新日:7月22日
行政書士法人メイガス国際法務事務所の大沢です。
本日は弊所にインターンに来てくださった大学生の方に、お仕事体験として、潜水艦を探知するために海中の音を聞くハイドロホン(水中マイク)が、外為法による輸出規制を受けるか否か判定する、「該非判定」の業務を体験して頂きましたので、インターン生の方による感想をご紹介します。
弊所の顧問先企業様・クライアント様には海洋関係の企業様が多く、ソナーシステムの輸出や、船舶の輸出、海洋調査・極地調査に際しての調査機材の輸出など、様々な海洋機器の該非判定に関するご相談を頂いており、このような案件は弊所ではよく取り扱っているため、今回のハイドロホンの該非判定についても、弊所での日々の業務の体験として適切な題材であると考えています(インターンプログラムのため、普段の実務と比べるとかなり簡単ではありますが)。
ハイドロホンとは?
ハイドロホンとは、水中の音を拾うための「水中マイク」のことです。音響センサーの一種で、水中で発生する音(たとえば潜水艦の音や海洋生物の鳴き声、地震の振動など)を検出して、電気信号に変換します。
🔍ハイドロホンの用途は?
水中では電波が届きにくいので、音がとても重要な情報源になります。ハイドロホンはこの音を「聞く耳」として、軍事・海洋調査・地震観測など幅広く使われています。
⚠️なぜ輸出が規制されるの?
ハイドロホンは潜水艦の探知や追跡に使えるため、簡単に他国へ販売できません。特に以下のような特徴を持つ高性能なハイドロホンは、軍事用ソナーや潜水艦探知アレイへの転用可能性が高いと思われます。
−180 dB re 1V/μPa 以上の音圧感度
可撓性センサー(曲げても壊れないセンサー)を使用するもの
1,000mを超える深海でも使える耐圧性能
そのため、「外国為替及び外国貿易法(外為法)」などに基づいて、一定の性能を超えるハイドロホンは輸出規制の対象になっています。つまり、無許可で海外に持ち出すと違法になるケースもあるのです。今回の該非判定のお仕事体験では、クライアント様から持ち込まれたハイドロホンが、輸出規制にひっかかるスペックのものか判定する、という想定で行われました。
今回のお仕事体験の流れ
今回のお仕事体験では、最初にハイドロホンの基礎知識を座学でお教えしました。その上で、弊所からお渡ししたハイドロホンのカタログや仕様書、マニュアル等の技術資料を元に、外為法の輸出令・貨物等省令と照らし合わせて、該非判定を行うべき項番をインターン生の方に特定してもらい、そのまま該非判定を行ってもらう流れで進めました。
最初の座学では、ソナーやハイドロホンの原理や、自由音場における送波器の実効音響中心から基準距離にある主軸上の音圧レベルの計算方法、Transmit Sensitivityを表すグラフの読図法など、ハイドロホンの該非判定に必要な最低限の知識をお教えしました。
「計算方法」と聞いて、該非判定では計算もいるのか、と驚かれた方もいるかも知れませんが、難しいものではありません。ハイドロホンやソナーの該非判定においては、「自由音場における送波器の実効音響中心から基準距離にある主軸上の音圧レベル」など、様々なスペックを計算する必要がありますが、その計算方法も運用通達で解説されています。
具体的には、音響送波器の音源レベル(Source Level, SL)は、自由音場条件下(周りに反射物がない状況)において、送波器の主軸方向かつ1メートルの距離(一番強く音を出す方向に1m離れた地点)における音圧レベル(rms値)として定義されており、音源レベル(dB re 1μPa @1m)は、以下の式により、送波電圧感度と駆動電圧から算出できます。
SL = TVR + 20·log₁₀(V)
SL:音源レベル(Source Level)[dB re 1μPa @1m]
TVR:送波電圧感度(Transmitting Voltage Response)[dB re 1μPa/V @1m]
V:送波器に印加される実効電圧(rms)[V]
なお、TVR は、送波器に 1 V(rms)を印加したとき、1 m の距離でどれだけの音圧(μPa)が得られるかを表す感度指標です。
上記の式は、音響送波器の性能測定や送信設計における標準的な換算式で、IEC 60565-1 等の国際規格にも準拠しています。
このように、初めて該非判定を経験する学生インターンの方でも取り組めるように、単機能の製品を想定して、丁寧に該非判定に関する説明を行った上で、実際に該非判定に取り組んでもらいました。
なお、途中で不明点が生じた場合は、お配りしている参考書籍(弊所教育本部所蔵の技術書)を参照して頂きながら、該非判定を進めてもらいました。
左:今回の該非判定演習で使用した技術書
右:ハイドロホンやソナーに興味がある人におすすめの図書
また、最後に弊所が実際に観測した誤判定事例として「自由音場における送波器の実効音響中心から基準距離にある主軸上の音圧レベル」を「送波電圧感度」と勘違いしているケースや、「Hzで表した10kHz未満の最大送波電圧感度が最大となる周波数」を、kHzのまま計算しているケースなど、よくあるケアレスミスを紹介してから、実際に該非判定に取り組んでもらいました。
インターン生の感想
東京大学文科一類二年生のS.Sと申します。法学部に進学予定ですが、まだ学部の授業も本格的には開始しておらず、該非判定や法令、センサーについての知識も無いも同然の状態ですがなんとかメイガス国際法務事務所のインターン生として参加させて頂きました。
本日、ハイドロホンの該非判定を体験しましたが、ハイドロホンのマニュアル等を参照しながら、該非判定に必要な部分の数値を見つけ出したり、判定に用いることが非常に難しいと感じました。
例えば、貨物等省令9条第1号の水中探知装置として規制対象となるか否かの条件として、イ(六)2には「当該装置から530メートル以内の距離にいる人を探知した場合の位置の誤差の2乗平均平方根が15メートル未満のもの」と記載されています。このような値はメーカーがマニュアルに全て丁寧に(ちょうどいい条件で)記載してくださっている訳ではないので、自分で計算して判断する必要がありました。
また、そもそも専門的な製品のマニュアルをしっかり読み込むという経験が私にとって初めてでした。日常生活で操作方法の確認程度に簡単な取扱説明書を読むのと違い、該非判定に必要な情報を専門的な技術資料から見つけ出すのは難しく、自分の知りたい情報が散逸しており、あちらこちらを参照することにとても苦労しました。
加えてマニュアルは英語で記載されており、日本語でも意味のわからない専門用語や単位を英語で読み解く必要がありました。英語は大学生になってからも熱心に勉強していたつもりでしたが、英文技術資料となると、読み解くには時間がかかりました。このような業務をミスなくこなすには、能力だけでなく集中力と効率性が要求されると痛感しました。
また、デューティーサイクルや送波電圧感度など、判定に必要な値の意味や専門知識については事前に教えていただきましたが、私は高校生以降触れてこなかった物理・化学のような内容に拒否反応を示しそうになりました。法規制を理解するためには、理系分野であろうと関係なく学習し、最小の時間で実務に反映しなければならないという点が大学との勉強の最大の違いだと感じます。
今回扱ったハイドロホンについては、一切この演習まで聞いたことがありませんでした。関連するソナーや魚群探知機についてはニュースや映画等で見かけることがありましたが、海無し県で生まれ育った私には全く馴染みのない物でしたし、そんな馴染みのない機械について、性能を細かく制限する法令の存在なんて考えもしませんでした。
今回の演習でハイドロホンに関われたことで、社会は自分の知らない場所で様々な人の仕事によって維持されているのだと感じました。今回の演習をきっかけに該非判定の技術だけではなく、社会の事柄についてより興味関心を持って学んでいきたいと思います。