今回は弊所の中堅職員である谷垣に、弊所での仕事についてインタビューしてきました。

職員 メイガスへの入職前と入職後で、何か違いはありましたか?
谷垣 最初に思い浮かぶことは日々の国際政治や社会情勢などのニュースが、直接自分に関係するようになったことです。
例えば、2019年の韓国のホワイト国の除外や、2022年のロシアによるウクライナへの侵略です。報道でも大きく取り上げられていましたので、皆さんも記憶にあるのではないでしょうか。
韓国がホワイト国※から除外された際には、韓国系のクライアント様のオフィスに訪問し、法的にどのような効果が生じるのか説明を行いました。この頃、私は入職したてでしたので、上司が横で説明しているのをただ聞いているだけでしたが、ちょっとニュースを身近に感じた瞬間でした。
(※ ホワイト国とは、外為法に基づく輸出管理において優遇される国。2023年に韓国はホワイト国に復帰しました。)
次に、2022年のロシアによるウクライナへの侵略※ですが、これは今でも私の仕事に直結しています。具体的にはクライアント様の行う取引が、日本政府の行っている対露制裁に抵触しないか確認することです。
(※ 2014年の侵略時も制裁は発動されましたが、2022年以降の制裁の方が格段に複雑かつ膨大です。)
職員 対露制裁対応に従事した感想は?
谷垣 全地域向けの輸出規制と異なり、対露制裁は動きが早く複雑で、何より責任を強く感じます。
仮に自分が誤った判定を行い、本来であれば規制を受け輸出できない製品を、規制を受けないものであるとしてクライアント様に誤った意見表明をすれば、法に反して侵略国たるロシアを利することに繋がりかねません。
反対に、本来規制を受けないにもかかわらず、規制を受けると意見表明すれば、善良な民間事業者の商機を奪うことになりかねません。
また、上述のとおり対露制裁は動きが早く、制裁対応のためのガイダンスなども発行されていません。なので、条文や通達のみをもって対応することになりますが、それらだけではどうしても判断に迷う場面もあり、経済産業省のロシア審査班にはよく電話で照会を行いました。戦局に合わせて制裁を課すことに意味があるのだろうから、経産省の官僚の方々もとても大変だろうと思います。
さらに、対露制裁ではどのHSコードに分類されるかという点が大きな意味を持ち、HSコードの分類を誤れば対露制裁の誤判定に繋がります。そのため税関には実際に何度も足を運び、打合せを行いました。
ただ、そのような重責を感じる仕事だからこそ、無事にそれぞれの案件が完了した際には達成感や楽しさも感じます。
しかし、難しい案件を楽しんでいられるのもボス(弊所代表の大沢)がいるときだけですよ。
職員 と言いますと?
谷垣 ある時、いきなりボスから一人で会議に出るよう指示されました。その会議の内容は、日本と友好的でない某戦時下の国が行っている、当該国の首相肝いりのプロジェクトに、弊所のクライアント様が参加を検討しているが、どのような懸念があるか?というものでした。
私は下調べの通り、米国財務省外国資産管理室の課しているOFAC制裁に抵触する可能性があるということを淡々と説明していました。この時点でなかなか物々しく重い案件でしたので、私は欠席したボスを恨んでいました。
するとそこで先方が唐突に「先生、実はこの取引、数百億円がかかった大プロジェクトでして…。」と仰るのです。
内心はもう、(え~!それ先に教えてくださいよ~!結論の伝え方とか温度感とか、全然ニュアンスを配慮してなかったよ~!)と冷や汗です。事前情報ではそこまで金額の大きそうな感じでは無かったこともあり、大変驚きました。
ただ、当たり前ですが金額によって弊所からの回答内容が変わる訳ではありません。でも先方はプロジェクトへの参加について肯定的な意見を暗に求めてきます。そのため、しっかりと寄り添い前向きな検討をした上で、それでもどうしてもダメだとか、こういうリスクが排除しきれないのでビジネスで判断して欲しいとか、伝え方を工夫する必要があります。
「どれだけ事業者がやりたがってても、ダメなもんはダメですよ。ハイ終わり」と突き放してはいけないわけです。私はそういう配慮をしてクライアント様に寄り添おうとしても、なかなか自分で至らないなと思う所があるので、あの時はボスがいなくてとても心細かったです。ボスがいればどんな気まずい難局でも対処してくれるんですがね。
別件ですが、数百億円を超えるM&A案件の緊迫した会議で、セルサイドとバイサイドの関係者から、回答内容によっては案件が壊れるかもしれないような際どい意見を求められても、ボスは間違ったことはもちろん言わず、どちらから恨まれるようなことも言わず、批判的な厳しい評価をせざるを得ないときは、「ここからは私見ですが/あくまで一つの提案ですが」と断った上で、その場の誰もが納得できるような建設的で現実的な対応策も提示するなど、誰からも恨まれずに、その場を前向きで協調的な雰囲気にまとめてしまいます。そういう法的知識以外の面も求められる難しい会議を、うちのボスは難なくこなしてきます。あれは本当にすごいと思います。
職員 ボス、鋼のメンタルですね(笑)
職員 先程、税関によく足を運んだと言っていましたが、官僚の方と仲良くなったり、覚えられたりすることはあるのですか?
谷垣 あります!とあるクライアント様に「南極向けの輸出はどの国向けとして扱えばいいの?」と聞かれました。(南極!?昭和基地向けなら在外公館と同じ扱いで日本…?それとも南極条約では南極ではどの国の領土でもないとされてたはずだから、公海と同じく海外扱い…?)とわからず、経済産業省の担当課に電話しました。
私が名乗ると、担当官がどうやらこちらのことを知っているような反応を示されたので、「以前もお世話になりましたかね」と伺うと「前にもすごく難しいことを聞いてきましたよね」と煙たそうに返されました。なので、印象はともかくとして、覚えられることはあります(笑)。
ちなみに、後日「宇宙に貨物を持ち出したいんですけれど…」と同じ方に問い合わせると「今度は宇宙ですか!」と苦笑されました。
職員 クライアント様とはどうですか?
谷垣 クライアント様とは本当に仲良くなれたり、信頼して頂いているとはっきり感じることが多いです。
例えば今年は、普段あまりご相談頂く機会の少ない顧問先のカウンターパートの方から、その会社の主力商品の販売を継続できないかも知れないとメールを頂きました。大変な事態ですので、私はすぐにカウンターパートの方に電話しました。
1時間ほど緊急対応として可能な限り助言し、無事に問題はクリアになりました。電話を終える頃には先方もすっかり安心され、最後には「これからも継続して顧問契約お願いします」と仰っていただき、こちらも嬉しかったです。
また、海洋調査などを行うクライアント様から夜間に連絡が入り、政府の依頼で緊急出航する必要が生じたが、輸出管理の対応が完了していないので明朝までに完了させてほしいとの緊急のご依頼を頂いたことがありました。
通常であれば数営業日は必要な作業でしたが、札幌出張中のボスも夜通しサポートしてくれました。また、カウンターパートの方とも深夜に何度も打ち合わせし、何とか依頼を完了させ、明け方には成果物をクライアント様にお送りできました。するとすぐにカウンターパートの方からお電話がかかってきて「先生がお休みになる前にお礼をお伝えしたくて…。」と、とても感謝されました。それからは(少なくとも私自身は)ちょっと仲良くなれたかなと感じています。
職員 翌朝までに終わらせるって、大変な仕事ですね!他に記憶に残るような大変な仕事はありましたか?
谷垣 とっつきにくさで言えば、この前、タイの電波法に関する例外規定の問い合わせがありましたね。
職員 そんな仕事もあるんですか!?どう対応したのですか?
谷垣 たまにあります(笑)私はさっぱりわからず困ってしまいましたのでボスに助けを求めました。すると、30分もしないうちにもうボスからクライアント様にメールを返信していました。その返信内容を見ると、20年以上も前の、タイの王室官報までチェックした上で回答していました。ボスは「DeepLはタイ語に対応していないんだよね~」と軽く言っていました。(じゃあどうやって読めたと?)
職員 ボスさすがです(笑)でも、ボスが巻き取ってくれるならどんな無茶なご依頼があっても安心ですね。
谷垣 もちろん最初から頼りっきりではいけませんが、どうにもならないときはボスが助けてくれるという安心感はやっぱり強いです。
職員 最後に、入職した頃のメイガスと、今のメイガスを比べてみて、どういうところが違いますか?
谷垣 執務環境も全然違いますし、ご依頼頂く案件も考えられないくらい複雑になって、難しくなって、規模感も大きくなりました。また、昔は役員車はおろか、物資運搬に使う業務車も一台もなく、いつか中古でもいいから社用車がほしいですね、なんて言ってました。
また、こちらのコラム(行政書士の独立開業vs事務所勤務)でも触れられていますが、昔は結構自由でした。
さすがに私が入ってからはボスがふらっと一か月旅行に出かけることはありませんでしたが、それでも平日に二人で仙台まで牡蠣を食べに行ったり(この牡蠣でボスは当たりました)、新潟までカニを食べに行ったり(ここで出てきたカニ汁が最高でした)、名古屋まで名古屋飯を食べに行ったり本当に自由で楽しい日々でした。今はとてもそんなことする時間がありません。
でも今は多くの顧問先の皆様に支えて頂いており、日々様々なご相談を頂くことで、大変ではあるもののとても勉強になります。