電気微生物ってご存知ですか?
- 水澤
- 7月22日
- 読了時間: 6分
更新日:7月26日
先日、所内研修の一環で、JAMSTEC(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)横須賀本部を訪問・見学させて頂きました。
大学で生物学を専攻していた私としては、人工細胞の展示や珍しい深海生物の標本にすっかり見入ってしまい、もうそれだけでも胸が躍る時間だったのですが――その中で、思いもよらぬ“衝撃”との出会いがありました。
「電気微生物」――私はこの言葉をその場で初めて耳にしました。
「電気を食べて生きる微生物がいるんですよ」と、説明員の方がさらっと言った一言で、私の中の好奇心が弾みました。
■ 電気微生物って、なに?
電気微生物には大きく分けて2タイプがあるそうです。ひとつは「電気を食べる」電気合成菌、もうひとつは「電気を捨てる」発電菌。
「えっ、電気って食べられるの?」とビックリしませんか?どういう仕組みなのか聞けば聞くほど、私たちの常識の外側を生きている存在だと分かってきました。
■ 呼吸と電気のつながり
動物は、細胞内呼吸の代謝を進めるに電子の受け渡しが必要です。多くの生物の場合、解糖系→クエン酸回路→電子伝達系→ATPと水を生成するという流れを辿るために、細胞内では水素イオンの濃度差を利用し電子の受け渡しが行われています。
人間の場合、元となる電子は有機物や酸素から摂取し(始まりの電子)、電子の受け渡しの結果、最終的にATPと水を生成します(終わりの電子)。
一方、電気微生物の場合、この始まりの電子と終わりの電子の取り扱いに驚きの特徴があるのです。
■ 外の電子を「直接食べる」驚異の生き物
なんと、電気を食べる電気合成菌の場合、始まりの電子を電子のまま直接体内に取り込むことができるのです。
多くの生物が、細胞内呼吸に使用するための電子を食事や酸素から取り込んで細胞内で電子のみを抜き出す必要があるのに、電気合成菌の場合は、体の外側に電子回路が飛び出ており、自然界に存在する鉱物や他の細胞等から直接電子をゲットすることが可能なのです。
この電子の釣り竿とも言える構造のおかげで、電気微生物は電極や金属と直接やり取りすることすら可能で、金属の腐食原因になることもあるそうです。電気を食べるだけでなく電線もかじってしまうとはすごいですよね…!
■ そしてもう一方、電気を「出す」生き物
電気を出す方、つまり発電菌は、内部で得た電子を、体の外に設置された“電子ケーブル”を使って外部へ放出できます。この過程で発電が行われるため、微生物燃料電池への応用が期待されています。
実際、JAMSTECでは廃水処理と発電を同時に行う微生物燃料電池の研究も進めているそうです。電気を出す菌が、社会のエネルギー問題に関わる未来が来るかもしれません。
■ 微生物を「磁石で回収する」!?
さらに面白いのが、JAMSTECで行われている研究の一つ。電気微生物の体外に伸びている電子を出し入れするための「電子回路」の部分に、目印となる磁性材料を結合させておき、磁石を使って電気微生物だけを回収するという技術です。
これを応用すれば、薬剤に頼らず特定の微生物だけを除去することができるようなこともできるかもしれません。例えば、水中での機械の検査や試験の際、腐食やバイオフィルムを避けるため、薬剤を撒いて水槽内の微生物をすべて殺す必要がありますが、そのまま排水すると薬剤によって生態系へ影響を及ぼす危険性がありました。しかし、この研究によって電気微生物のみを排除できれば無害な微生物を殺す必要や生態系への影響の軽減が期待できるそうです。
もちろん、腐食やバイオフィルムの原因が全て電気微生物というわけではありませんが、“ピンポイントで悪さをする相手だけを取り除く”ということ自体が革新的です。
他にも、JAMSTECでは発電菌を利用した微生物燃料電池を廃水処理などで活用することや、発電菌による微生物発電の研究も行っていると伺いました。応用の幅が広く、とても面白い発見でワクワクします。
■ 微生物=すぐ自由に使える、わけじゃない
電気微生物が腐食性の抑制や発電、環境修復に応用されるという話を聞いて、次に思い浮かんだのは商用利用・実用化のステップにおいてどのような法規制が関係するだろうかということです。
特に、微生物を環境中に放つ場合、それが自然界に存在する種かどうか、あるいは培養・改変された株かによって法的な取り扱いはガラリと変わります。
電気微生物たちは、なんと深海の熱水噴出孔のまわりにも存在しているそうで、JAMSTECの調査では、熱水噴出孔周辺に自然の電流が流れていることを発見し、そこに生息する電気微生物の集積培養にも成功したということなので、今回は培養されたものとして、許認可を検討することになろうと思います。また、極限環境微生物の話題ではよくあるテーマですが、採取場所によってはABS協定の検討が必要です。
そして、例えば日本国内で微生物を用いて土壌や水質の浄化を行うには、「カルタヘナ法」や「バイオレメディエーション指針」の対象となるかどうかを精査する必要があります。
たとえ自然由来であっても、電気微生物を人工的に培養・選抜・遺伝子改変している場合は、環境放出の前に許認可が必要となります。
この審査では、遺伝子配列、繁殖能力、拡散性、他種との水平伝播リスクなど、多くのバイオセーフティ基準が問われます。
他にも、外為法についても検討が必要かもしれません。電気微生物(特に人工選抜株・改変株)や、その遺伝子情報・培養技術・電子移動メカニズムの詳細を国外に提供する場合は、技術提供として許認可対応を検討する必要がありますし、電気微生物を利用した装置や応用研究の成果(微生物燃料電池など)を、特定国向けに輸出する場合が該非判定・取引審査などの検討が必要です。
外為法といえば、余談の素人考えですが、電気微生物は電子授受反応を外部に向けて行えるという非常に珍しい性質を持っていますから、海中センサーの代替素子として、電気微生物を使ったセンサーが、水中の金属イオン濃度に変化があればそれを電気的に示すことも可能なのかな(そして、元々深海に住んでいた微生物ですから深海など過酷環境下でも生存・感応性を保てるのかな)と妄想してしまいます。いったいどんな応用がされるのか、今から楽しみですね!
■ 深海から届いた「第3の生態系」
これまで、生物のエネルギー源は「光合成」か「化学合成」のどちらかに大別されてきました。でも、この電気微生物はそのどちらでもなく、地球第3の生態系と言えるのではないでしょうか。
つまり、電気微生物の研究がより進み、地球第3の生態系であることが認められれば、教科書が書き換わるような大発見となるのです!電気微生物によって、今までの生態系の常識を覆すような新しい発見がなされたことは非常に興味深いことですし、自身が生きている間にもより研究が進んで未知のことが解明されると考えると本当にワクワクします。研究が進めば進むほど、未来の暮らしにも、そして私たちの「生命観」にも、大きなインパクトを与えてくれることでしょう。
電気微生物のような菌株を使ったバイオレメディエーション(たとえば油汚染の分解や、重金属汚染地の電気的無害化など)を企業が展開しようとする場合、是非弊所で許認可申請を取り扱ってみたいと思いました。
弊所はこれまでに、ナノマテリアルやメタマテリアル、量子暗号など、様々な最新の研究に関する許認可対応を支援してきました。今後も私たちは、科学の発展と社会実装の接点に立ち、微力ながらその橋渡しに尽力していければと願っております。