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該非判定のお仕事体験(慣性航法装置)

  • 大沢
  • 7月24日
  • 読了時間: 8分

行政書士法人メイガス国際法務事務所の大沢です。


本日は弊所にインターンに来てくださった大学院生の方に、お仕事体験として、慣性航法装置が、外為法による輸出規制を受けるか否か判定する、「該非判定」の業務を体験して頂きましたので、インターン生の方による感想をご紹介します。



弊所の顧問先企業様・クライアント様には、防衛機器、航空機器、無人機開発、宇宙工学関連の企業様が多く、慣性航法装置(INS)やジャイロセンサ、加速度計を含むナビゲーション機器の輸出、ならびにそれらを搭載した機体や探査装置の海外展開に伴う該非判定のご相談を多数いただいているため、今回の慣性航法装置の該非判定についても、弊所での日々の業務の体験として適切な題材であると考えています(インターンプログラムのため、普段の実務と比べるとかなり簡単ではありますが)。


慣性航法装置とは?


慣性航法装置(INS)とは、加速度計(普通のスピード計と違って、どれだけ急発進したか、急減速したかがわかるようなセンサー)やジャイロセンサー(どれだけ傾いてるかがわかるセンサー)を用いて、GPSなどの外部信号に頼らずに自身の位置・速度・姿勢を推定するためのナビゲーション装置(自分がどこにいるかわかる装置)です。



🔍慣性センサーの用途は?

GPS信号が届かない水中や地下、あるいはジャミング・妨害が想定される戦場環境において、INSは極めて重要な自己位置推定手段となります。そのため、軍事用途はもちろん、航空宇宙、防衛技術、海底探査、資源開発、建設分野などでも広く活用されています。


建設分野と聞くと意外かも知れませんが、ICT建機(i-Construction)の関係では一般的に使用されています。ブルドーザーやショベルカーのブームやアーム、バケットなどにIMUが組み込まれ、傾斜角・速度・移動距離をリアルタイムで把握しながら、ミリ単位での施工精度を実現しています。GPSと組み合わせて使うことで、山間部やトンネルでも正確な施工が可能になるのです。


⚠️なぜ輸出が規制されるの?

慣性航法装置は、潜水艦やミサイルの精密誘導、ドローンの自律飛行などに用いられるため、一定の精度を超えるものは軍事転用が強く懸念される装置とされており、簡単に他国へ販売することはできません。例えば、以下のような特徴を持つ高性能なINSは、外為法上の規制対象となり得ます。


  • ジャイロスコープのバイアス安定性が0.05°/h 以下

  • 加速度計のバイアス安定性が1年間につき0.00128メートル毎秒毎秒未満のもの

  • CEPが移動距離の0.5%以下の慣性航法装置


以下の画像は輸出令/貨物等省令による具体的な規制内容の抜粋です(クリックで拡大)。

左:加速度センサーに関する輸出規制

中:ジャイロセンサーに関する輸出規制

右:慣性航法装置に関する輸出規制


このように、「外国為替及び外国貿易法(外為法)」などに基づいて、一定の性能を超える慣性航法装置や加速度センサー、ジャイロセンサーは輸出規制の対象になっています。つまり、無許可で海外に持ち出すと違法になるケースもあるのです。


今回の該非判定のお仕事体験では、クライアント様から持ち込まれた慣性航法装置が、輸出規制にひっかかるスペックのものか判定する、という想定で行われました。


今回のお仕事体験の流れ


今回のお仕事体験では、最初に慣性航法装置や加速度センサー、ジャイロセンサーの基礎知識を座学でお教えしました。その上で、弊所からお渡しした慣性航法装置のカタログや仕様書、マニュアル等の技術資料を元に、外為法の輸出令・貨物等省令と照らし合わせて、該非判定を行うべき項番をインターン生の方に特定してもらい、そのまま該非判定を行ってもらう流れで進めました。


最初の座学では、慣性航法装置(INS)の構成、MEMS(微小電気機械システム)/FOG(光ファイバージャイロ)/RLG(リングレーザージャイロ)のそれぞれの原理と特性、バイアス安定性・スケールファクター精度・アライメント誤差、トランスポートレート補正など、該非判定に必要な最低限のスペック指標について説明し、加速度計やジャイロスコープの性能評価に用いられるアラン分散(Allan variance)のグラフの読図法なども解説しました。


読図といっても単純で、たとえばジャイロスコープのバイアス安定性(Bias Instability)は、Allan分散のグラフにおける変曲点(最小値)を0.664(係数)で割ったりして読み取ることで評価され、その値が0.5°/h以下であれば、輸出規制に該当となる可能性があると判断する程度のことで、難しい計算をするわけではありません。角度のランダムウォークやドリフトレート安定性など、輸出規制で関係する他の数値も読図・計算で求めることができます。


本来は慣性計算アルゴリズムを理解するために、座標変換行列や積分についても理解するべきですが、今回はインターン生向けのお仕事体験イベントのため、その辺りは概要と原理にだけの説明に留めました。


なお、途中で不明点が生じた場合は、お配りしている参考書籍(弊所教育本部所蔵の技術書)を参照して頂きながら、該非判定を進めてもらいました。


左:今回の該非判定演習で使用した技術書

右:慣性航法装置やジャイロに興味がある人におすすめの図書


また、最後に弊所が実際に観測した誤判定事例として「バイアス安定性」を「バイアス再現性」と勘違いしているケースや、ノイズ要素(Bias Instability / Drift / ARW)を混同しているケースなど、よくあるケアレスミスを紹介してから、実際に該非判定に取り組んでもらいました。


インターン生の感想


東京大学公共政策大学院生のNと申します。本稿では、私が行った慣性航法装置に関する該非判定演習の感想について記していきたいと思います。


今回の該非判定演習は、航空工学の座学を受講してから、実際に慣性航法装置の該非判定を行うという形で行いました。最初の座学において、航空工学についてかなりわかりやすく説明していただいたのですが、これまで航空工学を勉強してこなかった私にとっては、用語すら理解するのに手間取りました(文系人間の方々には共感していただけると思うのですが、理系の世界の用語って説明されてもいまいちピンと来ないことってよくありますよね、、)。


航空工学の用語や慣性航法装置の仕組みについて一通り理解した後、実際に該非判定を行いました。しかし、これがかなり曲者でした(先生曰く、簡単な該非判定だということですが)。これまでも簡単な該非判定は行ったことがあったのですが、それは資料から数値を読み取ることができ、かつ、項目別対比表に掲載されている用語の意味を理解することができれば、対応できるものでした。そして、製品の仕様書などに掲載されている数値も、例えば、温度(℃)など、比較的分かりやすい数値であったため、何とか対応できました。(対応できたといっても、用語の意味を理解するのにかなり手間取ってしまい、一つの該非判定書を完成させるのに6時間ほどかかってしまいましたが、、)


それに対して、今回の該非判定で私が難しいと感じた部分は、用語の意味の理解、製品カタログに掲載されている用語と項目別対比表に掲載されている用語の同義性の判断です。

まず、用語の意味の理解で苦しみました。

例えば、「再現性」という用語について、経産省のマトリクス表を見ると、「計測時に計測条件を変化させる又は作動を停止させる場合において、同一の作動条件の下で同一のパラメータを繰り返し計測した値の近似度をいい(IEEE STD 528-2001パラグラフ2.214参照)、初期値からのバラツキの標準偏差(1シグマ)として表される。」と掲載されています。

確かに、「再現性」という意味はこのように丁寧(?)に記載されていますが、皆さんはこの文章を読んで意味を理解できるでしょうか。

理系の方であれば理解できる方も多いでしょうが、文系人間の私にとっては何回読んでも中々理解できませんでした。もちろんネットでも沢山調べるのですが、中々理解できませんでした。

「再現性」という言葉以外にも理解に苦しむ用語は沢山出てきます。これらの用語の意味を理解することが難しいと感じた点の一つです。


また、製品カタログに掲載されている用語と項目別対比表に掲載されている用語が同義なのかどうかの判断にも苦しみました。例えば、製品カタログには「加速度SF誤差」という用語が掲載されていますが、これはスケールファクターの再現性と同義なのかという判断に苦しみました。

数値だけみると、何となく同義な気がするのですが、もちろん該非判定を何となくですることはできないので、本当に同義なのか調べる必要があります。ただ、再現性と調べても上記のような定義しか出てきませんし、加速度SF誤差との関係について丁寧に記載してくれているサイトなんてありません。もちろん製品カタログにも掲載されていません。最終的にはこの問題は解決しましたが、同義性の検討にはかなり苦しみました。


このように、今回行った該非判定演習は、厄介な点が複数あり、個人的にはかなり苦しみました。ただ、それでも一つ一つの問題を解決していくことには、とても達成感がありました。本稿を今読んでくれている方の中には、今後、メイガス国際法務事務所でインターンを経験してみたい、あるいは、正規職員として勤務されることをお考えの方もいらっしゃると思います。該非判定業務は間違いが許されない業務であり、緊張感がある業務で、一筋縄では行かない問題も多いです。それでも大きな達成感がありますので、是非皆さんもチャレンジしてください!

 
 

行政書士法人メイガス国際法務事務所

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