所内教育紹介(通信)
- 某職員
- 5 日前
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弊所のクライアント・顧問先企業様の中には、通信関係の企業・団体の方も多くいらっしゃいます。例えば、放送事業者、通信衛星事業者、通信キャリア、携帯電話回線事業者、ネットワーク機器ベンダー、無線機メーカー、通信機器専門商社、防衛装備品商社等の方から、外為法を中心に、電波法、電気通信事業法等、様々な許認可のご相談を頂いております。
しかし、通信機器に関する許認可の申請を行うには、一般的な法令の知識だけでなく、通信関係の知識が必要です。
例えば、艦船に搭載する通信妨害装置を輸入したり、フェーズドアレイレーダーを外国企業と共同開発輸出したりする場合は、電波法や外為法の対応を検討する必要がありますが、通信関係の知識がないと対応が難しくなります。
そのため、弊所では通信関係の所内教育にも力をいれております。本記事では、通信に関する弊所の所内教育をご紹介致します。
なお、通信関係の所内教育は、無線通信士や無線技士の国家資格を有する行政書士や、大手通信キャリアでネットワークエンジニアとして働かれていた技術顧問(通信分野)が担当しています。
(ご参考)弊所が提供しているICTに関する法務サービスの紹介ページはこちら
① 所内での座学
弊所では、通信関係の技術系教育と法律系教育を職員向けに実施しています。
技術系教育科目の一例:『通信工学』『無線工学』『電波工学』『電磁気学』等
法律系教育科目の一例:『外為法(通信関係)』『電波法』『電気通信事業法』『有線電気通信法』等
座学では、無線通信士・無線技士用の教材や、電気通信主任技術者試験用の教材、理工系の大学・大学院で使用される通信系の教材、電子戦関係の教材など、様々なものを使います。
所内教育で使用する教材の一部 (右の写真の電波法令集、でかすぎる)
② 見学・実習
座学で基礎的な知識を得たら、次は見学・実習を通して、実際のところを学んでいきます。
弊所ではNICT(国立研究開発法人 情報通信研究機構)や、陸上自衛隊 通信学校、航空自衛隊 電子開発実験群(通信機材の研究を行う部隊)等を外部研修として訪問し、研究者・実務者の方から直接お話をお伺いしています。
参考コラム:部隊研修(電子開発実験群)
左:陸上自衛隊のネットワーク電子戦装置
右:NICTで見学した空間光通信の実演
例えば、NICTでは、日本標準時を送信するNTPサーバ(Network Time Protocolサーバ、いわゆるタイムサーバ)とセシウム電子時計を見学しました。

電波時計は正確な時刻を電波で受信しているということは有名ですが、実は、電波時計などが日本の正確な時刻(日本標準時:JST)を知るために受信している標準電波は、NICTが送波している電波(長波)なのです。
送られる時刻や周波数の情報は、日本の国家標準として非常に高い精度で保たれており、その基準には上の写真の「セシウム原子時計」や「水素メーザ」といった超高精度な時計が使われています。これらの時計の精度は、誤差が10兆分の1レベルという非常に小さなものです。また、人工衛星を使って他の国の標準時と比較・調整しており、国際的なズレもないようにされています。
電波時計以外に、インターネット上で使われるNTPサーバー(Network Time Protocolサーバー)でも、NICTが提供する正確な時刻情報が活用されています。NTPは、パソコンやサーバーなどのシステム時計を正確に保つための仕組みで、NICTの時刻サーバーにアクセスすることで、ネットワーク上の時刻を国の標準に合わせることができます。
このように、私たちの身の回りの機器やネットワークが正確な時間で動くために、NICTが提供する標準時や標準電波が重要な役割を果たしていますが、その原理や装置の実物を拝見することは少なく、貴重な機会を頂けました。
他にも、普段仲良くさせて頂いているJAMSTEC(国立研究開発法人 海洋開発研究機構)では、水中音響通信の実演を拝見しました。
水中音響通信というと耳慣れない方もいるかと思いますが、水中では電波がほとんど届かないため、潜水艇やROVが水中で撮影した映像を地上(船上)へ伝送するためには、電磁波ではなく音をキャリアにして通信しています。ちなみに、GPSの信号も水中にはほとんど届かないため、潜航中の潜水艇やROVは自己の位置を知るために、GPSではなく慣性航法装置を使います。

上記の水中音響通信システムでは、水深6,500mの深海から、最大80kbpsでの通信が可能です。最速で1秒1コマの画像を送ることもできます。
水中の音波は空中の電波と比べて20万倍遅く伝わるため、反射波が長い時間間隔で受信され、信号に大きな歪みが生じます。また、水中の音波は空中の電波に比べて利用可能な帯域幅が狭いため、高速化のハードルが高くなります。
所内教育受講者の感想
職員A「以前にもこの教育は受けたのですが、何年も経っているので忘れていないか不安なのと、5Gどころか6Gなど新しい話も出てきているので、復習も兼ねて再度この教育を受けることを希望しました。周波数ホッピングやスペクトラム拡散などの、普段の業務でもよく使う知識は覚えていたのですが、QAM(直角位相振幅変調)といった変調方式や、OFDM(直交周波数分割多重方式)といった多重化方式に関する知識は私の担当業務ではあまり使わないため、時間が経って少し曖昧になっていました。5Gに関する相談が増えているので、改めて関連技術を復習しようと思います。」
職員B「電気用品安全法ではEMCの試験をしたり、電波法ではBODY-SARの試験をしたりしますが、実習で実際に電波暗室で試験をしたり、NICTでBODY-SARの試験方法を見学したりと、貴重な経験をできたおかげで勉強になりました。CISPRの試験基準とPSE別表第十の試験基準の違いもよくわかりました。ただでさえ電波は目に見えないので、せめて機材だけでも実機を目にできて良かったです。」
職員C「顧問先企業様からのご依頼で、タイムサーバーや、ルビジウム発振器といった機器の該非判定(貨物が輸出規制の対象となるか否かの判定)をしたことがあるのですが、なかなか実物を見たこともない装置では原理を勉強しても腹落ちしにくい気がします。実際に原子時計の実物や運用状況を拝見することで、より理解が深まったと感じました。」
職員D「わたしは水中通信装置の輸出案件を担当したことがあり、水中通信装置はスペックによっては外為法において輸出規制の対象とされているので、該非判定と輸出許可申請などの許認可対応を行ったのですが、実際問題、電磁波ではなく音の波で本当に通信できるんだろうかと疑問に思ってました。それが、今回JAMSTEC様にお伺いして水中音響伝送の実演を拝見して、音声どころか画像までしっかり伝送できるのを見て、こんなにちゃんと通信できるのかと、とても驚きました。やはり、実物を見ることは非常に大事だと思いました。」