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某職員

法務事務所でのITのお仕事

弊所では、部内で利用するためのアプリ開発や、業務システムからGPT-4等のAIモデルを呼び出すためのAPI開発、スクレイピング機能の実装、部内データベースの構築運用などを自社のみで(外部委託なしで)実施しています。


今回は、弊所のIT系のお仕事にはどのようなものがあるのか、所長に聞いてきました。


 

職員「所内のIT関係のお仕事は、2人だけで担当されているんですか?」


所長「通常のIT法務はほぼ全員が対応できないといけませんが、高度なIT法務の相談や、純粋にIT関係の業務は、私とITエンジニア出身の職員Kの2名が担当しています」


職員「お二人はIT系に強いんですね」


所長「私は実は元々IT系で、法律業になる前、今みたいにディープラーニングモデルのAIが流行るより前ですが、遺伝的アルゴリズムなどを研究していたんです。大学で教えたりしていて、職業エンジニアになったことはないんですけれど。根っこはIT系ですね。最近でも非常勤講師として、日本工学院の高度専門士課程(※)でAI特別ゼミを担当したり、C++プログラミング授業の上級コースを担当しました。あとは資格予備校の非常勤講師として、情報処理技術者試験の講師をやることもありますね」


※ 高度専門士とは文部科学省が認定した4年制の専門学校を卒業した者に授与される学位(称号)で、学士(大卒)と同じく大学院の受験資格が認められる。


大学で初学者向けのネットワーク解析(パケットキャプチャ)の実習授業を行う所長


職員「Kさんの方はどういったIT系のバックグラウンドがあるんですか?」


所長「職員Kは、情報学科出身のバックエンドエンジニアで、特許庁でシステム開発を担当したり、様々な AI リーガルテックサービスの設計・開発・実装を担当していました。使用言語は Python、C++、Java 等です。元々は私がKに、離散数学から、自然言語処理のためのマルコフ連鎖モデルまで色々と教えていたんですが、今ではすっかり追い抜かされて、もう私が足元にも及ばない立派なエンジニアになってくれました」


職員「所長とKさんは結構長い付き合いなんですね!」


所長「そうですねえ、もう10年以上になるのかな」


職員「所内では所長やKさんが作られた、様々なシステムが日々の業務を助けてくれますけれど、EAR早見システム(※)なんかは、一体どういう風に作るのですか?なんだか、英語とか数字とかが羅列されたようなコードを打ち込んで作るんですか?」


※ EAR早見システムは、弊所で自社開発し、所内で利用している米国輸出管理規則の対応を支援する独自システム。SlackやTeamsなどの社内チャットから、APIで呼び出したAIモデルに対して話しかけ、輸出したい貨物の仕向先の国・地域と、輸出したい貨物のECCNナンバーを入力すれば(入力例:中国向けの2B006)、用意されたテーブルと照らし合わせ、規制理由等を考慮しながら輸出規制の対象となるか否かを回答してくれるもの(回答例:当該貨物を中国に輸出する場合、核不拡散と国家安全保障の観点から、事前に米国商務省産業安全保障局の許可が必要です)。


AIモデルを利用しているが、判断プロセスはハードロジック。入力された仕向地をファジーに解釈できるところにAIのメリットがある(つまり、中国向け、中華人民共和国宛、to PRC、Mainland Chinaなど、どのような記載方法でも理解してくれる)。100カ国以上の国名を羅列してプルダウンメニューから選ぶのは億劫なので自由入力とAIを用いたインターフェースが採用された。カントリーチャートの更新等はスクレイピングで情報を拾ってくる。


EAR早見システムの動作画面


所長「そうそう。EAR早見システムの実際のコードの一部をお見せしましょう。セキュリティの関係上、最新のものではありませんが」


自社開発の『EAR早見システム』のコードの一部。Pythonで開発された。


職員「このシステム、本当に便利ですよね!売らないんですか?」


所長「保守責任とか負いたくないので!でも、顧問先企業様でもこちらのシステムをそのまま移植して使用したいと仰って頂いているところもあります。そちらは、コードをすべて開示して、先方の情シスの承認を得た後に、本格的に移行とトレーニングを始める予定です。そういうご要望は実際、とても多いです」


職員「オーダーメイドで開発してほしいっていう相談はないですか?」


所長「ありますが、既存の他社製品を紹介しています。我々の能力を信頼して頂けるのはとても嬉しいですが、ベンダーじゃないですからできることに限界もあれば、組織としての得意不得意もありますから。あとは、自社開発を支援するために、先方の情シスの方に法規制を説明したり、どのようなテーブルを用意して主キーは何にすべき、更新情報はどのサイトからスクレイピングするべきとか、実務的なアドバイスを行うことはあります」


職員「本当に法務の枠を超えてIT系のお仕事をされてますね…。IT系の知識があると、やっぱりIT系企業の方から信頼してもらいやすいですか?」


所長「弊所の顧問先企業様には、ITディストリビューター、セキュリティベンダー、OS/RTOSベンダー、脆弱性診断・ペネトレーションテスト会社、システム開発会社、通信会社など、IT業界の会社様が多くいらっしゃいますので、やはり共通する前提知識を持っているとなると、クライアント様も安心して相談して頂けるのかなと思うことはあります。そういえば、IT専門商社の方から、『うちの営業よりうちの製品に詳しい…』と言われたときはなんだか面白かったですね(笑)」


職員「IT以外でもたまに言って頂けますよね(笑) IT系の企業様からはどういうご相談を頂くことが多いですか?」


所長「暗号の輸出規制に関する相談が一番多いですね。二番目は、SaaSやPaaS等を利用したソフトウェアの利用に関する外為法対応でしょうか」


職員「どちらもIT系の素養がないと、法律の知識だけでは対応が難しそうに聞こえますね」


所長「そうですね。我々はプロのITエンジニアを目指す必要はありませんが、開発したアプリがAPIで暗号ミドルウェアを呼び出して、ミドルウェアがSPIで暗号化サービスプロバイダを参照する場合に、どこまでが輸出規制で検討しないといけないのか相談されても、『APIってなに?ミドルウェアってなに?』という状態では危ないですから、最低限のリテラシーは必要になりますね」


職員「そうはいっても暗号は難しくて…(笑)」


所長「わかる(笑) 楕円曲線Diffie–Hellman暗号 ※とか、量子ストリーム暗号 ※とか、『もう勘弁してくれ!』って思ってます(笑)


※参考となるWikipediaや海上自衛隊幹部学校の論文のリンクを本文に貼っておきましたのでご興味のある方は是非。ややこしくて頭が割れそうになります。


職員「外為法以外の他の法令についてIT系の相談をされることはありますか?個人情報保護法とか、プライバシー関係の法律は聞かれるイメージがあります」


所長「個人情報保護法とか、GDPRとか、そういったプライバシー関係の法律もたまに相談されることがありますが、そちらは専門にしていらっしゃる弁護士の先生が多いので、そちらをご紹介することが多いです。逆に、電気通信事業法や電波法なんかは、BIG4の弁護士の先生から紹介を頂くこともあります」


職員「弊所が思ったよりITに強いんだなということを知れました!」


所長「まあ、これからじっくり所内教育を受けて、みんなで強くなっていかないといけないんですけどね!」


職員「がんばります😭」

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